治療は診断が全て
歯内療法での疾患は、歯髄組織が物理・化学的刺激を受けたり、細菌の感染により炎症を惹起したりするいわゆる「歯髄炎」と、根管の感染などにより、主に根の先端部付近にある孔を通じて根尖周囲の歯周組織に炎症を惹起した「根尖性歯周炎」の2つが多く扱われます。
歯に痛みを感じ、歯内疾患が疑われる場合は、まずこの2つの疾患のうち、どちらに関係した痛みなのかを正確に診断する必要があります。
なぜならば、これら2つはその処置方針が全く異なるからです。
歯髄炎の場合は、歯髄組織の痛みであると言え、根尖性歯周炎の場合は、歯ではなく歯周組織の痛みであると言えます。
「誘発痛」と「自発痛」
また、痛みの種類も「誘発痛」と「自発痛」の2つに大別されます。
「誘発痛」とは、冷たい水がしみるなど、何らかの刺激が入力された際にその時だけ痛みを感じるものです。
また「自発痛」とは、何もしなくてもずっと痛いような場合を言います。
これは、歯および歯周組織の構造的な理由によるもので、例えば歯髄組織は歯の内部の閉鎖的空間に存在するので、内部で強い炎症性反応が起きた際に外部への炎症性滲出液の排泄が出来ず、歯髄の入っている空間(歯髄腔)の内圧が上昇したままになってしまいます。
そのような時は、歯髄組織内部の神経が常に圧迫状態になり、持続的な痛み、つまり「自発痛」となります。
また根尖性歯周炎においても、根の先端部周囲が歯槽骨に囲まれているので、急激な排膿などが起きた場合、同様に内圧の上昇が起き自発痛が発現します。
症状がなくても歯内疾患が存在することがある
一方、虫歯により歯髄腔に到達するような穴が開いていたり、歯根周囲の歯肉に膿の排泄孔(瘻孔)が開いていたりすると、炎症性滲出液はそこから排泄されてしまうため、内圧は上昇せず、さほど痛みを感じない、いわゆる慢性状態となります。
痛みが無いからと言ってその疾患が治ったわけではなく、徐々に悪化することがほとんどです。
最初の診断が重要
以上のことから、歯髄炎と根尖性歯周炎の診断は、複雑な症状や所見を紐解いていく必要があり、単純な作業ではないことが多いのです。
歯を口腔内に少しでも長い期間保存させるには厳密な処置が必要ですが、そもそも処置を行うには、正確な診断が必要不可欠です。
また、例えば根尖性歯周炎の処置としては、歯の内部の無菌化を目指した感染根管治療(歯の根の治療)が行われますが、処置領域に齲蝕が残っていたり、歯根破折などがあったりする場合は治療そのものが成立せず、無意味なものとなってしまいます。
感染根管治療を行う際は、齲蝕を完全に除去し、歯根に破折などが無いか前もってチェックする必要があります。
知識と経験と設備が適切な診断を下す
このように、厳密な診断が必要となる歯内療法の対象疾患ですが、処置も歯の内部に行うものがほとんどですので、肉眼では見えない領域に対して手を加えていくことに他なりません。
つまり肉眼で直視出来ない領域に対して、いかに正確な診断を行い、適切な処置を進めていけるかということになります。
近年では、この「見えない領域」に対して少しでも多くの情報を得る目的で、手術用顕微鏡の応用や、歯科用コーンビームCTの導入が行われつつあります。
手術用顕微鏡の根管治療への応用により、今まで全くの手探りであった根管内部の処置を、顕微鏡の光が届く範囲のみではありますが、拡大し直視することが可能となりました。
また歯科用コーンビームCTにより、今まで用いられてきた通常の口内法エックス線画像検査では決して見ることが出来なかった歯の断面像や病巣の奥行きを正確に知ることが出来るようになりました。
つまり複雑な根管系の構造などを処置に先立ち綿密に知ることにより、より高度かつ正確な診断が可能となりました。
このように近年では、歯内療法の領域も最新機器の導入などにより高度な進歩をとげていますが、これらの機器を使いこなし、より厳密・正確な診断や処置を行うためには、高い知識と技術の修得が必須です。
ただ機器類を購入し使ってみただけでは意味をなさず、結局はそれらを使う術者(歯科医師・歯科衛生士など)のスキルに大きく左右されると言って良いでしょう。
まずは通常の根管治療が、高いレベルで行えるだけの知識と技術が無ければ、より高度な根管治療を行うことは出来ません。