様々な原因によって歯周病原性細菌によって歯周組織に炎症が起きると、深い歯周ポケットが形成されてしまいます。
やがて、この歯周ポケットと呼ばれる溝から体内に侵入した細菌そのものや細菌由来の病原因子だけでなく、炎症によって作られる物質(サイトカイン)が歯肉の血管を通じて血液に流れ込んでいき、これが全身の組織や臓器に何らかの影響を与えていくのです。
歯科の様々な研究結果によって、歯周病が多くの疾患に影響を及ぼし、その発症や進行の原因になっていることが明らかにされています。
歯周病がリスク因子となっている代表的な疾患を幾つか挙げていきます。
心臓に血液を供給する冠状動脈で血液の流れが悪くなり、心臓に障害が起こる病気の総称を「冠状動脈性心疾患」と呼びます。その中でも、心筋梗塞や狭心症の虚血性心疾患は、心臓の冠状動脈にアテローム性プラーク(血管沈着物)が形成され閉塞されていくことで生じる病気になります。
歯周病によって血管内に侵入した歯周病原性細菌やその病原因子などが、血流に乗って冠状動脈に達するとアテローム形成が加速化して、心血管の病気が発症しやすくなるのです。
全国に約700万人の患者がいると言われている糖尿病ですが、この「糖尿病」には腎症・網膜症・神経障害・末梢血管障害・大血管障害などの合併症があり、歯周病はこれらに続く第6の合併症と指摘されています。
そのため糖尿病患者さんの多くに重度の歯周炎の発症が見られています。また逆の作用として、歯周病の炎症によって産生されるサイトカインのうち、ある種のものが血糖値を低下させる作用を持つインスリンの効きを阻害するため、歯周病患者は血糖コントロールが改善しにくくなるという相互の悪影響があるのです。
高齢者に多く見られる病気の一つに、気管に入った唾液中の細菌などが肺に感染して起こる「誤嚥性肺炎」があります。
特に、要介護の高齢者などは飲み込む力や咳反射が低下しているため、唾液や歯周病による細菌などが気管に入りやすく誤嚥を起こしやすくなっているのです。
歯周病の高齢者に適切な口腔ケアを行い、歯周病原性細菌等の口内細菌が減少すると肺炎の発症率が下がることが明らかになっています。
妊娠中の女性と歯周病との関係で注目すべきが「早産・低体重児出産」です。
妊娠中はホルモンの変化などによって歯周病になる人が少なくありません。
妊娠中の女性の歯肉の血管から侵入した歯周病原性細菌やサイトカインが血流に乗って子宮に到達すると、子宮筋の収縮を引き起こして早産や低体重児出産になる可能性があるのです。
近年の報告によると、歯周病にかかった妊婦さんに低体重児出産が起きるリスクは健常者の4.3倍程度にもなると言われているのです。
歯周病は口の中だけの問題ではないのです。