お口は食べ物の入り口であると同時に、呼吸のための入り口でもあります。体温で温度が保たれ、唾液もあり、食事が入ってくるということで、細菌にとってまさに生きやすい環境の場所。従って細菌は、手入れを怠るとその数を爆発的に増やしてしまいます。
「毎日朝晩歯を磨いて口の中を清潔に保つ」といった基本的な口腔ケアが、糖尿病、腎臓病、心筋梗塞、さらには認知症など全身の疾病に深く関係していることが、最近の研究で明らかになっています。
う蝕(虫歯)、歯周病にならないためにも、口腔ケアが大切になってくるのですが、介護が必要な高齢者の場合は、これに「誤嚥性肺炎の予防」が追加されます。口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを“誤嚥”と言います。誤嚥性肺炎とは、物を飲みこむ働きが弱まり唾液や食べ物、胃液などと一緒に細菌を気道に吸引してしまい惹起する肺炎のことを言います。そしてこの誤嚥性肺炎は、死因の第三位となっており、予防のためには、効果的な口腔ケアを継続して行う必要があります。
訪問歯科診療では、多くても週一回訪問ですので、毎日の口腔ケアは患者さん本人やご家族などの介護者、他職種(訪問看護師、ヘルパー)にお願いしなければなりません。まずは、ご本人にセルフケアの方法やコツをアドバイスし、取り組んでいただきます。疾患の特徴・進行具合などから患者さん自身で出来る範囲は異なりますが、生活のリズムやリハビリとして、セルフケアは必要だと考えます。そして、口腔内細菌を少しでも減らして長生きしてもらうために、周りの皆で口腔ケアに関わることが出来れば、口腔内のプラーク(歯垢)の質や付着状況の改善、歯肉炎の軽減につながり、毎回のブラッシングの負担も少なくなります。
現在訪問歯科診療で関わらせていただいている患者さん、またご家族の取り組みにより、口腔内環境の向上から、“食欲が出てきました”、“発声が良くなりました”、などの声をお聞きし、嬉しい効果を実感しています。
皆で関わることで喜びや悩みを共有し、相談もしながら、長生きのお手伝いができる環境を作ることが理想ではないかと思います。その一員として、歯科衛生士の立場で協力していきたいと思っております。
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