歯科訪問診療は、一般的に通院されている方の要望や目的とは少し違います。
虫歯を治すことや入れ歯の作成希望など、院内と変わらない診療もありますが、誤嚥性肺炎などにならない為の口腔衛生管理や、最期まで美味しく食事を摂るための口腔機能訓練を行なっています。
そんな訪問衛生士の感動のエッセイを皆さんに聞いていただきたいと思います。
Aさんは30代の男性で、頭部外傷後遺症により食事はペースト食を3食摂っていました。
入院中からお母様が「口から食べなきゃダメになる」と食べる練習を行なっていたそうです。
発語はまだ難しく、声からの意思を汲み取ることはできません。
そんな時、動きの良い左手にペンを持たせ画用紙に文字を書く練習をしているとご家族から伺い、見せていただくとまだ文字とはほど遠いものだったそうです。
これをコミュニケーションに生かせないかと考えた歯科医師の指示で、口腔の機能訓練と併せて書く練習も行なっていくことになりました。
試行錯誤での練習ののち、最初は一文字だったのが今では文章を書くまでとなり、つねに険しい表情だったAさんも声を出して笑うようになったそうです。
それから6年後のAさんからの手紙です。(画用紙に渦巻状に平仮名で書かれています。)
歯医者さんと衛生士さんへ
僕は○○と言います
一人では何も出来ませんが言ってることはわかります
わからないと思って適当にやる人もいますが何も言えません
今 飲み込みの練習で○○先生が来てくれています
先生が初めて先生の中で僕を人として見てくれました
だから嬉しかった
僕たちのように言えない人でも気持ちはあります
しっかり僕の声を聞いてください
今来ている衛生士は僕が思ってることを聞いてくれます
これから飲み込みの指導をする衛生士も患者の声に気付いてください
訪問は患者さんの口腔を見て、全身を見て、環境を見て最善を求めて診療しています。
そして患者さんの“心の声”に耳を傾け少しずつでも一緒に前進したいとあらためて思いました。
関連する訪問治療のページはこちら